• 農林水産物の輸出拡大戦略を紐解く〜インバウンドと輸出増加の関係性〜

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農林水産物の輸出拡大戦略を紐解く〜インバウンドと輸出増加の関係性〜

農林水産物・食品の輸出拡大

・はじめに

世界的に見るとワクチンの普及により、段階的に国内旅行の活性化、またワクチンパスポートなどの証明により一部海外旅行についての兆しも見え始めています。しかし、ニューノーマルの時代において国境をまたいだ移動がこれまでと比べてハードルが上がっているのも否めません。もちろん日本においても例外ではありません。

直近の市場ではK字型回復と呼ばれ、ECやゲームなどの事業ではこれまで以上に増益を達成し、一方で航空、交通、飲食などの事業は減益となり、大きく勝敗が別れました。この知見を海外ビジネスにも当てはめてみると、実際の人の移動を伴わない事業への注目度はますます高まり、それは内閣の掲げるクールジャパン戦略による日本の魅力を海外に知ってもらい、海外現地で商品の購入やサービスを使ってもらうことにつながってきます。それにより日本のファンが増えることでいずれ回復する訪日インバウンドへとつながってくることが期待されます。

・農林水産物の輸出拡大の背景

インバウンドのような海外客に日本国内で消費してもらうことに対し、日本のモノを海外で消費してもらういわゆる輸出については、内閣としてもコロナ以前から高い目標を掲げていました。実際、「農林水産物・食品」の輸出額は9000 億円を超えており、2012年から2019年で2倍以上に増加していることになります(図1参照)。これはまだまだ成長が期待される伸びしろが大きい分野といえ、2025年における日本の目標額は2兆円、2030年に5兆円というさらに大きな目標を掲げています。

そのような背景をもとにして、2020年に公開された「農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議」による「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」を紐解いていきます。

 

農林水産物・食品の増加要因としては主に以下と言われています。

増加要因1:アジアを中心に海外の商品所得の向上
増加要因2:訪日外国人の増加により、日本の魅力が海外に広まった
増加要因3:政府による輸出促進法により輸出先国との規制の整備等の取り組みが進んだ

要因2の訪日客を受け入れることを除いては、海外への情報発信や海外での商品購入はコロナの影響を受けづらく、むしろ旅行に行けないフラストレーションや日本ロスへの思いは輸出領域では追い風となります。

農林水産物・食品の輸出拡大

(図1:日本の農林水産物・食品の輸出額の推移)

・これまでの課題

以下が日本の輸出に対する課題として挙げられているものですが、特に農産物の輸出は他国と比較してもかなり小さいものでした(図2参照。最下部の青色グラフが日本の農産物の輸出額)。

課題1:農林水産物・食品の輸出割合が他国と比較して低く、国内依存型となっている
課題2:日本人向けだと日本人と異なる嗜好を持つ海外消費者に受け入れられない
課題3:現地が要求する量・価格・品質・規格を継続的に提供しなければ小売店の棚を確保できない

これらは日本市場の延長ではなく、海外市場の需要に対しての継続的に生産、輸出する必要があるという方向性を示しています。

農林水産物・食品の輸出拡大

(図2:世界国別の農産物貿易額 2018年)

・対策方針

方針1:日本の強みを活かす重点品目と目標設定
方針2:農林水産事業者の挑戦を促進
方針3:政府一体で課題を克服していく

 

「方針1:日本の強みを活かす重点品目と目標設定」

■ 牛肉:和牛の人気
■ 豚肉、鶏肉:とんかつや焼き鳥などの日本の食文化
■ 牛乳、乳製品:香港や台湾で品質が高評価
■ 果樹:りんごやぶどうなど、品質も見た目もよい果実が海外で人気
■ 野菜:焼き芋がアジアで人気
■ 茶:健康志向とともに欧米を中心に煎茶、抹茶が普及
■ 米:冷めても美味しい日本米は寿司やおにぎりに向く
■ ホタテ貝:水産輸出額でNo.1
■ 日本酒:世界中で認知が拡大中
■ 焼酎、泡盛:ユニークな蒸留酒としての評価
など

上記のような日本の強みを活かしていける品目の設定とそれぞれの目標輸出額が掲げられています。和牛や日本酒などはわかりやすい日本の品目ですが、他にも日本の強みを打ち出せる品目も多く含まれています。

 

「方針2:重点ターゲット国・地域の明確化」

(金額は各品目別の2019年の輸出実績、カッコ内は各国地域別の実績)

■ 牛肉297億円:香港(51億円)、台湾(37億円)、米国(31億)
■ 豚肉16億円:香港(12億円)
■ 鶏卵23億円:香港(22億円)
■ 牛乳乳製品184億円:ベトナム(76億円)、香港(36億円)、台湾(30億円)
■ りんご145億円:台湾(99億円)、香港(37億円)
■ ぶどう32億円:香港(17億円)、台湾(12億円)
■ もも19億円:香港(14億円)、台湾(4.3億円)
■ 茶146億円:米国(65億円)、EU(23億円)
■ 米52億円:香港(15億円)、米国(7億円)、中国(4億円)
■ ホタテ貝447億円:中国(268億円)、台湾(54億円)、米国(23億円)
■ 菓子202億円:香港(59億円)、中国(42億円)、米国(25億円)
■ 日本酒234億円:米国(67億円)、中国(50億円)、香港(39億円)
など

それぞれの品目において市場規模感は異なりますが、いずれも大幅に増加する目標値が掲げられています。りんごでみると台湾が大きな額を占めており、またホタテなどは中国が大きくなっています。全体としてみると香港への輸出が大きく2020年の輸出額ランキングでは、1位となっています。続いて、2位が中国、3位アメリカ、4位台湾、5位ベトナムといった順番になっています(図3参照)。

国土や人口から考えると、香港が1位というのは意外ではありますが、いかに香港での日本農産物が売れているかという証明とも言えるのでしょう。

 

 

農林水産物・食品の輸出拡大

(図3:日本の農林水産物・食品 輸出先国 ランキング2020年)

 

「方針3:官民一体となった販売力の強化」

農林水産物に限ったものではないですが、輸出を成功させていくには政府や民間企業の官民一体となった販売体制が重要となっています。以下は、戦略に含まれている連携項目の例となります。

 

・農林水産省と経済産業省の連携のもと、JETRO(ジェトロ)およびプロモーションの専門機関としてJFOODOがともに各品目団体と連携を行う
・インバウンド旅行者促進と連携した訪日外国人への日本文化や食文化の理解や普及を図る
・JAグループなどの農林漁業者団体は自らの目標設定を行うが農林水産省によるサポート
・GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)を通じて情報提供や技術指導サポート
・2021年度に農林水産省に輸出国際局を設置し、輸出拡大を推進

・さいごに

ニューノーマルの時代、よりポテンシャルが高くなった「農林水産物・食品」の輸出ではありますが、上記の図2のように他国に比べると日本の輸出額や割合はまだまだ少ない現状です。そして、日本の良さを知ってもらう、商品を戦略的に陳列してもらう、その手法としてのデータ分析やデジタルプロモーションは遅れをとっています。これだけポテンシャルの高い日本の資産があるがゆえに、官民一体となってデジタル活用を活かして2030年の5兆円の目標を目指していきたいものです。

参照

農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略~マーケットイン輸出への転換のために~

(農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議 2020年11月30日)

https://www.nta.go.jp/taxes/sake/yushutsu/pdf/0021003-047.pdf