量から質への転換を目指す沖縄県の観光戦略

沖縄県の観光戦略

量から質への転換を目指す沖縄県の観光戦略
~ 沖縄観光コンベンションビューローインタビュー ~

こんにちは!Vpon JAPANのMamiです。

観光に携わるキーパーソンの方々に観光業界のリアルなお話を伺う企画のVponインタビュー。今回は、国内人気観光地のひとつである沖縄県の観光戦略について、沖縄観光コンベンションビューロー(略称:OCVB)の金城 孝氏にインタビューのご協力をいただきました。

沖縄観光コンベンションビューロー誘致事業部 部長 金城 孝 氏

沖縄県

沖縄の自然 ©️ OCVB

2021年7月に奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(奄美・沖縄)が世界自然遺産に登録された沖縄県。これらのエリアが保有している何百年・何千年と時間をかけて築いてきた素晴らしい大自然が世界に認められましたが、そんな嬉しいニュースと同時期に、度重なる緊急事態宣言や県内の感染者数拡大により県の観光業は大打撃を受けました。

そんな状況下の中でありながらも、従来のマスマーケティングから、ターゲットマーケティング戦略へシフトチェンジを図る沖縄県観光。観光客数に焦点を当てた施策から脱却し、“沖縄県が目指す先”について伺いました。

「コロナ禍で変化したプロモーション施策」

VponのMami(以下、Mami):コロナ禍に入り、プロモーション施策はどのように変化しましたか?

沖縄観光コンベンションビューロー金城 孝氏(以下、金城 氏):

沖縄県では、コロナ禍以前からブランディングプロモーションとして「Be. Okinawa」プロジェクトに取り組んでいます。沖縄を海外に展開していくために海外のデザイナーの力を借りながら立ち上げたもので、その後国内向けにも展開してきました。コロナ禍に入り、旅行のニーズに様々な変化があった中で、このブランディング戦略をどう次の戦略へ繋げていけるかという点を新たな課題として、情報収集に努めています。

そしてこの『Be. Okinawa』のブランディングプロモーションは継続しつつ、防疫型観光推進の一環として『憩うよ、沖縄』(読み方:いこうよ、おきなわ)というプロジェクトをはじめました。癒すという意味の「憩う」と「行こう」をかけたキャッチフレーズと、ガジュマルをモチーフに沖縄の動植物や食材を組み合わせたイラストを作成し、「Be.Okinawa」のコンセプトに沿った、きれいな空気、リフレッシュ、解放感などを意識した情報発信を展開をしています。ただ、今後の方向性に関しては、感染終息やGo Toトラベル再開という状況にもよるので、このキャッチコピーを継続して使用するべきなのか等は関係者の方々の意見も取り入れながら、ニーズ・状況に応じて柔軟に対応していこうと思っています。

「憩うよ、沖縄。」のメインビジュアル

「世界自然遺産の価値の魅せ方と守り方」

Mami:7月に奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(奄美・沖縄)エリアが世界自然遺産に登録されましたが、コロナ禍という大変な状況下でどういった国内プロモーションを行なってきましたか?

金城 氏:

世界自然遺産は、環境に配慮することを前提にプロモーションする必要があります。そのため、ここ数年は特に環境意識や自然保護など観点から、メディア媒体は注意して選んでいます。例えば、テレビなどのマスで届けるよりも、特定のラジオ番組でややニッチなリスナーに向けて世界自然遺産の情報を配信しています。OCVBとしても、沖縄北部のやんばるの価値とは何か、どうお伝えしたら多くの方に沖縄の世界自然遺産の良さを知ってもらえるか、という伝え方・魅せ方を常に考えています。

世界自然遺産に登録された国内の他地域の事例から、その地域に観光客が押し寄せることで自然環境に悪影響を及ぼしてしまう等の懸念はあります。しかし、沖縄の場合は現地の受け入れ体制やガイドラインなどを整備する時間が必要でしたので、このコロナ禍のおかけで整える時間ができたという意味では前向きに捉えています。

ヤンバルクイナ

やんばるエリアのみに生息する固有種のヤンバルクイナ、飛べない鳥としても有名 ©️ OCVB

金城 氏:

しかし、やんばるエリア(沖縄北部)に関して言うと、制限区域やタッチポイントといったものが無く、現状では世界自然遺産内に自由に往来が可能です。その弊害として、希少動物が自動車に轢かれしまう事故や密猟といった事件も起こっています。

価値の魅せ方がマイナスに働かないような仕組みにするために、現在は行政や企業の協働体を含めて対策を練っている段階です。構想には、Wi-Fiデータを用いた密集エリアの把握やドローンの監視システム設置などがあり、技術の力も借りながら自然を守るという取り組みが今後加速していくようなので今後徐々に解決されることが期待されます。

「SDGs意識向上や消費額低迷の解決に向けて」

Mami:沖縄県が目指す『県民に支持される観光』とはどういったものですか?

金城 氏:

観光業が落ち込んでしまったこのコロナ禍に様々な議論がなされてきた中で、沖縄観光はこれまでどう貢献してきたか、現在の状況、そして今後どうしていくか、ということを県民の方々にしっかりとお伝えしないといけないと思っています。

またOCVBでは、沖縄県の「おきなわSDGsパートナー」として、沖縄観光業界のSDGsの取組に対する普及啓蒙、情報発信に取り組んでおり、すでに様々な展開が行われています。その中でプロモーションに関しても、これまで以上に発信するコンテンツは背景を持って発信していこうと議論をしています。例えば、ホテルやグルメ、綺麗な景色やビーチなどをただ発信するのではなく、背景や裏付け、隠されたメッセージなども一緒に発信することで、半公的機関として発信するべき情報の質を高めていきます。

沖縄観光の課題としてある“SDGs意識向上“や“消費額低迷“の解決へ繋げるために、他メディアとの情報発信に関する役割分担や置かれている立場での発信を見直すことこそが、これらの課題解決の第一歩となると考えています。

沖縄エイサー

沖縄伝統の踊りエイサー ©️ OCVB

Vpon 西村 氏:

お話を聞いていて、事前の情報発信の部分が変わると様々な部分の改善にも影響してくるのではと感じました。事前知識を持った旅行者は歓迎したくなりますし、県民の方にとっても地元の誇りや満足度向上へと繋がって、結果的に観光の好循環が生まれてくると思いました。

金城 氏:

おっしゃる通りです!2022年度から第6次沖縄県観光振興計画が施行されるのですが、観光を県民の福祉や利益の向上になるような産業へ再構築することを目指し、最終作業が詰められています。世界の潮流がSDGsだからという理由ではなく、沖縄の観光が伸びてきた過程で、他産業とのバランスや波及効果、観光業に従事する県民の所得がなかなか上がらないなど、様々な課題も出てきてしまったので、もう一度観光のあり方を見直そうとしている段階です。

「旅ナカ体験の質を向上させるために」

Mami: 沖縄のソフトパワーを活かした体験についても質の向上を目指しているとのことですが、どのような取り組みをされていますか?

金城 氏:

最近ですと「新たな沖縄観光サービス創出支援事業補助金」という内閣府の事業を活用して、付加価値の高い沖縄の自然、歴史、文化、食などの資源を生かした22の新たな観光サービスの開発とモニターツアーの実施をサポートしています。これまでになかった多岐に渡るテーマのツアーが誕生しています。伝統工芸等の他産業への経済的な波及効果のみならず、それぞれの産業における次世代の後継者育成にも繋がっていくことを期待しています。

ツアーイメージ ©️ OCVB

金城 氏:

また質という観点だと、人材育成も重要だと考えています。当方の受入事業部では、コーディネーターの方やある特定の分野に精通した方を、観光の現場に講師として派遣する事業や、観光への理解を幼少時から深めてもらうためにも、小学校へ派遣する事業を行っています。長期的で地道な活動ではありますが、質の高いサービスを提供できるような人材育成へと繋がると思っています。

「オンラインイベントを通じ、インバウンド旅行者との関係を維持」

Mami:今後のインバウンド戦略に関して、特に重点市場の台湾においてはどのようなプロモーションをされる予定ですか?

金城 氏:

インバウンドの中でも特に台湾は、歴史的にもつながりが深く、就航年数も他国と比べての長いという特徴があります。交流が長いということで、台湾と沖縄との間にはコミュニティやビジネスがあり、文化やスポーツなどの交流も盛んですので、重要なエリアの一つとして再開への準備を進めています。

また台湾にも沖縄県の事務所があることから、現地でのリアルイベントやオンラインイベントを開催するなど、沖縄のことを忘れないような取り組みを行っています。台湾は感染状況も比較的落ち着いていて、旅客だけではなく貨物便のニーズもあるので、総合的に見ても再開に向けてのハードルは他地域より低いのではないかと考えています。もちろん、インバウンド再開に関しては、様々な関係機関との調整などに時間を費やすことを想定していりますので、OCVBとしては継続して情報発信を行い、各マーケットを温めながら、インバウンド再開に向けて準備を進めているところです。

「沖縄Fan Meeting in 台湾2021」
オンラインで沖縄と台湾を繋ぎ、現地ではリアルイベントとして開催された参加型の体験イベント。各イベントにインフルエンサーを呼ぶことで、SNS上でも積極的な情報発信が行われた。

「那覇空港 国際線の再開と今後」

金城 氏:

現状としては、那覇空港の国際線の再開に向けて課題が一つあります。たとえ航空会社が飛行機を飛ばそうと思っても、まず空港の受け入れ体制が整っていないと何も始まりません。そこで、去年から海外プロモーション課を中心にCIQ(※1)と那覇空港のビルディング会社、航空会社と定期的に意見交換を行ってきました。しかしながら国際線再開については、沖縄県単独で解決することは不可能ですので、今後は行政、政治的な働きかけや、観光・経済団体と連携した対応が一層重要となっています。

他地域における空港の国際線再開までの事例を参考に、那覇空港の国際線の再開には大体どれくらいの準備期間が必要かは見えてきました。最短でも半年はかかるだろう、とされる期間を想定しながら、沖縄での環境整備を図りつつ、台湾や上海、韓国などアジアを中心に県事務所が置かれている強み等を活かし、関係機関と一層の連携を強化して今後も現地のプロモーションを強化していきたいと思っています。

※1: CIQとは税関(Customs)、出入国管理(Immigration)、検疫所(Quarantine)の略

終わりに 〜観光の質を高めるとは?〜

沖縄観光コンベンションビューロー様へのインタビューはいかがでしたでしょうか。

観光の質の向上は、観光地の理解が深まるような情報発信や、講師の派遣事業など、短期・長期でかかるものを組み合わせながら、様々なアプローチを用いて取り組んでいく必要があるということを改めて感じました。特に沖縄県の場合は、新しい取り組みを次々に導入することよりも、現状に向き合い改善できる部分をブラッシュアップしている印象を受けました。質の部分に関してはすぐに効果が現れるというものではないと思いますが、このような活動の一つ一つが、旅行者や県民の方に長く愛される沖縄を作っていく土台になるのではと思いました。

VponとOCVB

インタビューが行われたオンライン会議の様子